2011年03月31日

放射能はどう身体に悪いのか(2)

 放射線がどうして人体に危険なのか、前回語った。では放射性物質についてはどうか。
 事故現場から離れた場所で放射能が観測されるのは、原発近辺から放射性物質が撒き散らされて飛んでくるからなので、一般人の被曝は放射線より放射性物質を心配しないといけない。

(ちなみに、Bq=ベクレル)

○放射性物質とは

 放射線を出す物質のこと。
 放射性物質の原子は不安定で、時間が経つと壊れて分裂したり、別の原子になったりする。このとき出てくるのが放射線。
 ヨウ素など、同種の物質(元素)でも放射性でないものがある場合もある。

○どう危険?

 放射性物質で一番危ないのは、体内に取り込んでしまう場合。放射性物質1ミリグラムが体外もしくは体内にあるとして、
 体外被曝の場合:人体のほうに飛んできた放射線のみに被曝する。放射性物質から離れれば被曝量は減る。
 体内被曝の場合:放射性物質から出る放射線すべてに被曝する。放射性物質が身体から出て行くまで被曝し続ける。

 それに、放射線のうちα線やβ線は、透過力が弱いため皮膚を突き抜けて内蔵まで届くことは無い。
 体外被曝の場合:皮膚(表皮〜真皮)までしか届かない。
 体内被曝の場合:これらの強力な放射線が、体内の臓器に直接当たる。

○どう防ぐ?

 体内に取り込む経路は、呼吸で吸い込む場合と、飲食に混じって入る場合。このうち飲食に混じる場合は、あまり消化できずに出て行く物質がほとんどらしい(食べた分の1%未満しか吸収しない)。
 呼吸で吸い込む場合は、食べる場合と比べて吸収率が高くなってしまうので、これを防ぐ。方法としては花粉症の人が花粉を吸い込まないようにする方法と似ている。
 放射性粒子は花粉よりも細かいので、花粉用マスクでも防ぎきれない(なりよりマシではあるけど)。濡れタオルを口に当てて呼吸するようにするといいらしいが、完全に防ぎたかったら酸素ボンベ+ガスマスクしかないだろうか……?


 以下、予備知識。ネタ含む。

○半減期って?

 不安定な放射性物質(元素)が壊れていって、量が元の半分になるのにかかる時間。短ければ短いほど、時間が経つとすぐになくなる代わりに、出す放射線の量が多い。
 たとえば、半減期が8.2日のヨウ素131は、一週間経つと半分近くが放射線を撒き散らした末に消えてなくなる。半年も経つと100万分の1になり、ほとんど消滅する。
 このまえ『半減期を過ぎれば安全だ』などという暴論を主張する人がいたが、半減期が経っても半分になるだけで、無くなるわけではない。
 また『半減期の倍を過ぎれば放射能はなくなる』と思ってる人もいるが、半減期の倍が過ぎても四分の一になるだけで、無くなるわけではない。

○ヨウ素131(半減期8.2日)

 原発事故では短期的に強い被害をもたらす物質で、チェルノブイリ原発事故の事例により健康被害が明確に知られている物質。
 身体の中に入ると甲状腺に集まり、そこが集中的に被曝する。二日ほどで身体から出て行くので、体内に残り続けることは無い。半減期が短く、ばら撒かれたすべてが半年もすれば殆どなくなる。

 あらかじめ安定ヨウ素剤を飲んでおくと、甲状腺が安全なヨウ素でいっぱいになり、放射性ヨウ素が甲状腺に溜まらず身体の外へ出て行く。このため色々なデマが飛び交っているが、食品栄養レベルの量では効果ないし、うがい薬の飲用は危険なので絶対ダメ。

 水道水のが暫定基準を超えたとかで話題になっているが、基準値の300Bq/Lとなっており、300Bqを飲むと被曝量は6.6μSv相当になる。一年続けると2,409μSv。
『何のために基準があるんだ』とは思うものの、確かにこのくらいでは即健康を害することはない。

○セシウム130(半減期30年)

 原発事故ではヨウ素と同じく飛び散りやすい物質。
 体内に入ると、主に筋肉に行く。一箇所に集まったりしないので、ヨウ素のような集中被曝はしないが、身体から出て行くまでかかる時間が3ヶ月〜半年と、ヨウ素よりも長い。

○プルトニウム239(半減期:24,100年)

 これも原子炉で作られる物質だが、性質上、核燃料自体が爆発しない限りは、飛び散ってばら撒かれることは無い。3/31現在では、そこまでの事態は起こっていない。
 ただし、長崎原爆や世界中の核実験によって、かなりの量のプルトニウムがばら撒かれており、世界中どこにでも微量に存在する。

 体内に入ると、骨と肝臓に溜まり、ほとんど身体から出て行かない。半減期も長いので、永遠に残ると思っていい。強力なα線を出すため、同じ量のヨウ素よりも被曝の危険度が大きい。

 長崎の土壌には原爆によりプルトニウムがばら撒かれ、世界平均より数倍も濃い濃度でプルトニウムが存在する。しかし多くの人がそこに住んで暮らしており、原爆被爆当時はとにかく今の世代にプルトニウムの健康被害は聞かれないため、摂取さえしなければ危険度は少ないのではと思う。

○ポロニウム210(半減期138.376日)

 誰だこんな物質のハナシ出したの。

 原子炉内のポロニウムの量は、上記三種よりもはるかに少ないので、ポロニウムの健康被害が出るほど被曝するはるか以前に、セシウムやプルトニウムに被曝して死ぬと思う。
 先述プルトニウムと同じ理由で、世界中にポロニウム210がばら撒かれて極々微量だけ存在する。ただし半減期がプルトニウムよりはるかに短いので、もうなくなっているかもしれない。

 この物質はほとんどα線しか出さないため、紙に包まれているだけでもう放射線検出できなくなる。体内に入ると、このα線を内臓が浴び放題になるため、少量でもものすごく危険である。

 2006年に元ロシア諜報員が不審死し、そこでポロニウムが検出されたため、たばこにはポロニウム210が含まれるというハナシが降って沸いた。そんなものが入ってるなら、タバコ磨り潰してガイガーカウンターを近づけたら反応するってば。

○ウ素800(半減期75日)

 聞いたときはフイタ。
『嘘八百』『人の噂も75日』から捩ったネタである。決まり文句は、

霞ヶ関やテレビ局から多量の「ウ素800」が漏出しています。精神衛生上、ただちに影響のあるレベルです。非難してください!!!
posted by きさらぎ at 13:04| Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス
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